[2021.08.14]更新
量子ビット
スピン渦誘起ループ電流を量子ビットとした量子コンピューター実現
スピン渦誘起ループ電流の制御:量子コンピュータへの応用
巻き数+1または−1のスピン渦に対して、巻き数+1または、−1のループ電流が可能です。右下の図のような2つの巻き数+1のスピン渦(Mで中心が示してある)と2つの巻き数ー1のスピン渦(Aで中心が示してある)がある系を考えます。各々のスピン渦のまわりに巻き数+1または、−1のループ電流ができるとすると、電流パターンは16通りになります。そのうちの8つを図の(a)-(h)に示します。残りの8パターンは全てに電流を逆向きにしたものになります。このループ電流の右向きー左向きを量子ビットとして量子コンピュータが実現出来る可能性があります。 従来の計算機は1ビットにつき、0か1の何れかの値を持つのに対し、量子計算機では量子ビットにより、1ビットにつき0と1の値を任意の割合で重ね合わせて保持することが可能です。したがって、n量子ビットあれば、2nの状態を同時に計算できる。もし、数千量子ビットのハードウェアが実現したら、理論上、現在のスーパーコンピューターで数千年かかっても解けないような計算でも、例えば数十秒といった短い時間でこなすことができることになります。 現在、理研の世界最高性能スーパーコンピューターの使用可能メモリーが10ペタビット(10の16乗)くらいですが、100量子ビットの量子コンピューターは10の30乗(= 2の100乗)ビットのメモリー空間をつかうことになります。大きさも小部屋一つくらいに納まり、使用電力も一世帯のそれぐらいであると考えられ(次世代スーパーコンピューターは専用の発電所が必要)環境負荷も小さいと予想されます。計算機の大幅な性能アップ、環境エネルギー問題などの観点からも量子コンピューターの早期実現が望まれます。
巻き数+1または−1のスピン渦に対して、巻き数+1または、−1のループ電流が可能です。右下の図のような2つの巻き数+1のスピン渦(Mで中心が示してある)と2つの巻き数ー1のスピン渦(Aで中心が示してある)がある系を考えます。各々のスピン渦のまわりに巻き数+1または、−1のループ電流ができるとすると、電流パターンは16通りになります。そのうちの8つを図の(a)-(h)に示します。残りの8パターンは全てに電流を逆向きにしたものになります。このループ電流の右向きー左向きを量子ビットとして量子コンピュータが実現出来る可能性があります。 従来の計算機は1ビットにつき、0か1の何れかの値を持つのに対し、量子計算機では量子ビットにより、1ビットにつき0と1の値を任意の割合で重ね合わせて保持することが可能です。したがって、n量子ビットあれば、2nの状態を同時に計算できる。もし、数千量子ビットのハードウェアが実現したら、理論上、現在のスーパーコンピューターで数千年かかっても解けないような計算でも、例えば数十秒といった短い時間でこなすことができることになります。 現在、理研の世界最高性能スーパーコンピューターの使用可能メモリーが10ペタビット(10の16乗)くらいですが、100量子ビットの量子コンピューターは10の30乗(= 2の100乗)ビットのメモリー空間をつかうことになります。大きさも小部屋一つくらいに納まり、使用電力も一世帯のそれぐらいであると考えられ(次世代スーパーコンピューターは専用の発電所が必要)環境負荷も小さいと予想されます。計算機の大幅な性能アップ、環境エネルギー問題などの観点からも量子コンピューターの早期実現が望まれます。
量子コンピュータ特許
我々は、スピン渦誘起ループ電流を量子ビットとした量子コンピューターの特許を取得しました。
我々は、スピン渦誘起ループ電流を量子ビットとした量子コンピューターの特許を取得しました。
ファラデーの電磁誘導則 (Flux Rule) の2つの古典電磁気的機構は、
量子力学では、波動関数の位相が持つdualityで繋がっていることを
明らかにしました。
筑波大 ホームページ (日本語)
筑波大 ホームページ (英語)
ファラデーが発見した電磁誘導の法則 (Flux Rule)、すなわち、磁束の時間的な変化が起電力を生み出すという法則
は、古典電磁気学では2つの異なる物理法則から成り立っています。一つはマックスウェルの方程式の一つで表されるもので、
を書き換えたものに相当します。これは、レンツの法則を導き出します。 もう一つは、磁場中を運動する荷電粒子が受けるローレンツ力、
により、電荷qを持つ荷電粒子が、速度vで磁場中を運動する時に受ける力が原因で起電力が発生する場合です。この場合も荷電粒子の動きが作る電流が流れる回路を考え、回路を貫く磁束の時間変化をFlux Ruleで計算すると、誘導起電力が計算されます。
高等学校の物理の教科書で、図のような、速度で動く導線とコの字型の回路に磁場Bが印加されている場合の誘導起電力の計算が扱われていますが、そこでは、2つの方法、つまり、Flux Rule とローレンツ力を使った計算が並んで行われています。教科書では、前者は、レンツの法則を通じて与えられています。つまり、マックスウェルの方程式から求めたものに相当します。
古典電磁気学では、上記の2つの機構での起電力生成は全く別物です。ローレンツ力による機構では、荷電粒子の存在が必須ですが、マックスウェルの方程式による機構では、それが必要ありません。しかし、両者とも起電力は、同一のFlux Ruleで表されます。ローレンツ力による誘導起電力を Flux Rule の形に古典物理学の範囲内で導くことはできますが、物理的に全く異なる機構より得られる起電力が’Flux Rule'として一つの法則にまとめることができるということは、非常に不思議なことです。このことに対して、砂川重信著『電磁気学』(岩波全書)の212ページには、以下のように記述が見られます(一部改変);“このように、その本質のまったく異なる二つの法則が、一つの法則としてまとめて表現されたということは、現在のところ偶然のいたずらとしか考えようがない”。
同様の記述は、有名な物理学の教科書『ファインマン物理学』にも見られます。そこには、以下のような文章が存在します;“We know of no other place in physics where such a simple and accurate general principle requires for its real understanding an analysis in terms of two different phenomena. Usually such a beautiful generalization is found to stem from a single deep underlying principle. Nevertheless, in this case there does not appear to be any such profound implication. We have to understand the "rule" as the combined effects of two quite separate phenomena”( "The Feynman Lectures on Physics, Vol. II”, 17-1, Addison-Wesley Publishing Company, Reading, Massachusetts, 1964)。ファインマンは、“このような一致が見られるとき、大抵は、統一的な両者を束ねる原理あるものだが、この場合には、それが見当たらない”、と述べています。
さらに、興味深いことに、アインシュタインの相対論に関する最初の論文の最初のパラグラフに以下のような記述が見られます;“It is known that Maxwell’s electrodynamics - as usually understood at the present time - when applied to moving bodies, leads to asymmetries which do not appear to be inherent in the phenomena. Take, for example, the reciprocal electrodynamic action of a magnet and a conductor. The observable phenomenon here depends only on the relative motion of the conductor and the magnet, whereas the customary view draws a sharp distinction between the two cases in which either the one or the other of these bodies is in motion. For if the magnet is in motion and the conductor at rest, there arises in the neighborhood of the magnet an electric field with a certain definite energy, producing a current at the places where parts of the conductor are situated. But if the magnet is stationary and the conductor in motion, no electric field arises in the neighborhood of the magnet. In the conductor, however, we find an electromotive force, to which in itself there is no corresponding energy, but which gives rise - assuming equality of relative motion in the two cases discussed - to electric currents of the same path and intensity as those produced by the electric forces in the former case.” (excerpt from English translation of “Zur Elektrodynamik bewegter Koerper (On the electrodynamics of moving bodies)”, Annalen der Physik, 17, 1905; compiled in “The principle of relativity”, Dover publications, inc.,1952). ここでは、例として、磁石と導体がある場合、どちらを動かしても同じ電流が導体に生じるのに、どちらを動かすかで、物理の記述が違うことが言及されています。つまり、静止した導体の近くで磁石を動かした時には、導体に電場に生じ、その電場から力を受けて電子が動き、電流が生成します。これは、レンツの法則に従って生じた電流と考えられます。ところが、静止した磁石の近くで導体を動かした時には、電場は生じませんが、電子に働く起電力が(ローレンツ力により)生じ、電流が発生することになります。
最近、私は、2つの機構は、量子力学とゲージ場としての電磁場を考えることで、波動関数のU(1)位相が持つdualityで繋がっていることを示しました。つまり、ファインマンが見当たらないと言っていた,“a single deep underlying principle”が見つかったのです。 量子力学では、物理量を表す演算子と物理的状態を表す波動関数の2つで物理を記述します。電磁場に対しては、ゲージポテンシャルが電場や磁場よりも基本的な物理量として現れます。ゲージポテンシャルと電場、磁場は以下の関係で繋がっています。
ゲージポテンシャルは、ベクトルポテンシャルを合わせたものです。ゲージポテンシャルが電場や磁場よりも基本的な物理量ということは、上の2式は、電場や磁場は、ゲージポテンシャルから導かれる2次的なものになります。ゲージポテンシャルが電場や磁場よりも基本的な物理量であるということを示す効果として、アハロノフ-ボーム効果があります。この効果が実際に存在することは、外村彰らの実験により確証されました。
ゲージポテンシャルで表された、電場、磁場は、レンツの法則を導くマックスウェルの方程式を自動的に満たしますので、奇妙な一致はローレンツ力から導かれる誘導起電力をゲージポテンシャルから導かれる起電力で表すことができれば、良いわけです。そのとき鍵となるのが、ゲージの自由度とゲージ変換です。 ゲージの自由度とは、同じ電場、磁場を与えるゲージポテンシャルは一つではなく、多数あるということです。このことは、以下の変換さえたゲージポテンシャルも同じ、電場、磁場を与えるということに相当します。
ここで f は、座標に関して一価である関数です。電場、磁場を基本的な物理量する古典物理学はこの自由度は計算を簡略化するのに使うことができます。つまり、計算が簡単になるゲージを選び、物理を損ねることなく、運動方程式計算することができます。量子力学では、ゲージの自由度は、波動関数の変化を伴ったゲージ変換というものになります。荷電粒子の物理的状態を表す波動関数も変換を受けます。つまり、ゲージ変換で波動関数は以下の変換を受けます。
このことは、ゲージ変換を通じて、電場、磁場と荷電粒子は不可分に繋がっていることを意味します。量子力学では、物理量、波動関数、観測が実験の測定値の背後に存在します。古典物理学では、電場、磁場は測定しなくても確定値を持って存在することが可能です。しかし、量子力学では、電場、磁場は、その観測によって初めて確定値を持つことになります。確定値を持つためには、それらと相互作用する荷電粒子が必要ですので、上記で述べた不可分が現れるのは、自然かもしれません。この不可分性により、古典物理学では、2つの機構、一つは、荷電粒子の存在を必要とするもの、もう一つはしないもので表されるFlux Rule が、繋がります。
上図の状況を考えてみることにしましょう。x軸方向に伸びた導体棒がy方向に速度vで動いているとします。磁場はz方向に印加されています。まず磁場が存在しない場合を考えその時の導体中の電子の波動関数を以下のように表します。
そして、磁場が存在するときに波動関数を
と近似してgを求めることにします。gを含む位相因子は、U(1)位相因子と呼ばれます。z軸方向の磁場は、ゲージポテンシャルA=(0,Bx,0) を使って表します。このときローレンツ力は、波動関数の位相に変化をもたらします。それは、
で与えられます。これは、ファインマンの経路積分で磁場からのローレンツ力による位相の変化としてよく知られているものです。q=-e は、電子の電荷です。導体棒がy軸方向に十分細くy=vt が近似的に成り立っているとするとgは-eBvtという運動量を持った並進運動を表す位相となります。これを時間で微分したものがニュートン方程式に現れる力となります。今の場合この力は、-eBv と求まります。これを電荷-eで割って、棒の長さlをかければ起電力Bvlが得られます。つまり、U(1)位相因子を全体運動と見たときに、それはローレンツ力で加速する運動となり、誘導起電力が現れます。
次に、U(1)位相因子をゲージポテンシャルと見ることにします。g から、ベクトルポテンシャルのx成分、-Bvt、が得られます。これを利用して電場のx成分がBvと求まります。したがって、棒の長さlをかけて起電力はBvlとなります。
上記のようにU(1)位相因子が全体運動とゲージポテンシャルの2通りの見方ができるdualityが存在します。そして、それが、Flux Rule で表される2つの古典電磁気学的起電力生成機構を繋げます。そこには、量子力学が持つ、電場、磁場と荷電粒子の不可分性が垣間見られます。
電場、磁場と荷電粒子の不可分性は、現在の最先端の理論物理学で現れる、ストリング理論に通じるものがあります。ディラックは、量子電磁力学の繰り込みが必要な発散の問題に対して次のように述べています; " It is probable that the source of this difficulty is that we are using the wrong Hamiltonian. There is no compelling argument in favor of it and it is worth trying to find a better one. In the present theory, one can give a meaning to an electron without the Coulomb field. The quantity by itself refers to such an electron. Probably in a correct theory it should be impossible to conceive of an electron without the accompanying Coulomb field. One possibility in this direction is to regard, classically, an electron as the end of a single Faraday line of force. The electric field in this picture is built up from discrete Faraday lines of force, which are to be treated as physical things, like strings. One has then to develop a dynamics for such a string like structure, and quantise it. The lack of spherical symmetry of this classical model of the electron gets removed by quantization. In such a theory, a bare electron would be inconceivable, since one cannot imagine the end of a piece of string without having the string."
高等学校で習う内容の奇妙な点が、量子力学やストリング理論に繋がっているということは、大変興味深いことです。
参考文献 H. Koizumi, J. Supercond. Nov. Magn. 30, 3345 (2017).